時計の針が0時を指して、厳かに鐘は鳴る。
 薫るレザーの渇いた匂いは軋むアンティークソファから。
 厳かに、静粛に。
 愛しい者に贈るキスは祝福を込めて。

 ――――――、

「センセイ……お誕生日おめでとうございます」

 抱き付いて、バサラが贈るは頬へのキス。

「ん……ちゅっ、うっ、ん……」

 永遠に傍に居たいのだと。
 バサラは頬を撫でるように唇を何度も滑らし、押し付ける。
 濡れた舌先や唇は天現寺橋を求めるように動いていく。
 密やかな吐息や粘つく水音が耳朶にも絡みついて、色っぽい。
 それでも、眸が重なれば子供のように笑うバサラがどこかちぐはぐで、愛おしい。



「最高の日をやるよ、お姫様」

 前髪を掻き分けて、目黒が贈るは額へのキス。

 大切なのだと。
 シンプルな想いは、シンプルな行動で示される。
 まるで幼子にするかのように優しく、後頭部に手を添えるようにしてそっと唇が落とされた。
 触れられるだけのキスなのに、だからこそ普段の凶暴性を孕んだ行為と対照的で、心が疼く。
 なのに、あらゆる欲望が触れ合った箇所から流れ込んでくるから不思議だ。
 優しい優しい、なのに赤い眸にはどこか甘い狂気も見え隠れしていて、天現寺橋は背筋に走る痺れに長い睫毛を揺らした。



「お前の生まれた日を心から祝おう……天現寺橋」

 くつりと喉を鳴らし、四谷が贈るは臍下へのキス。

 その身を愛でていたいのだと。
 唇と、隙間から割って出る肉厚な舌をぴたりと這わせ、四谷はゆっくりと天現寺橋の白い肌を食んでいく。
 時には吸い付き、時には柔く噛みついて、何度も天現寺橋を慈しむ。
 冷たく滑る舌の甘やかな感触が皮膚を通して伝わって、なんとも心地良い。
 天現寺橋はお返しに四谷の絹糸のような髪を梳いた。



「生まれてきてくれて有り難う、怜……」

 恭しく跪いて、上大崎が贈るは爪先へのキス。

 全てが愛おしいのだと。
 丹念に脚を撫でて爪先へ顔を埋め、優しく唇を寄せる。
 まるで好物を咀嚼するかのように指先、爪まで賞味していった。
 上大崎の唇も口腔も全てが熱くて。
 その熱がまるで澱のようになって、天現寺橋の身体と心に溜まっていく。
 縋り付くようにして己の脚に絡む上大崎が可愛くて、天現寺橋は甘い吐息を漏らした。

 ――――――、




 時計の針が0時を指して、厳かに鐘は鳴る。
 ざわめいた時間は止まって、心が攫われて。
 彼らの双眸には天現寺橋しかいない。
 そんな彼らを天現寺橋もまた眸に閉じ込めて、艶やかに微笑む。

「ふふ、皆……有り難う……。でもさ、まだ足りないんだ……だからもっと、してよ……」 

 口付けの余韻に酔い痴れ、天現寺橋の蕩けた腰が誘うように揺れた。

 ――――ねえ、いいだろ。
 囁く言葉はしたたる蜂蜜が如く、とろりと甘い。








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イラスト:坂本あきら
文:穂波
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