東京陰陽師~天現寺橋怜の場合~発売を記念して、
ライター・穂波さんがツイッター上に掲載したSSSをまとめております。


【風邪を引いた天現寺橋の看病/0722】

◇四谷の場合

「随分と熱がある…」

「すぐ良くなるさ」

「すまぬね、私は傍でお前の髪を撫でやることしかできぬ」

「充分さ…それに、きみの手…冷たくて、気持ちが良い」

「…天現寺橋」

「もう暫し、こうしてくれるかい?」

「…朝までこうしている」

「ふふ、嬉しいよ」

「お前の苦しみが全て私に移ればよいのに」


◇目黒の場合

「ほら、粥作ったから食え」

「…いらん、食欲ない」

「…卵豆腐作ったから食え」

「無理」

「……、せめて林檎すったヤツだけでも口に入れろ。じゃねぇと薬も飲めねぇだろ」

「粉薬は嫌いだ」

「ッ、ガキか!」

「ふん」

「てめぇ、意地でも食わせてやる…口移しをしても」

「…(よし、作戦成功だな)」


◇上大崎の場合

「…汗、沢山かいたね」

「そう、だな」

「あ、ほら鎖骨にも汗が…それに熱が帯びた眸も、何だか色っぽいし…、ん」

「え…、ぁ、ん」

「ッ、ごめん。無意識に汗を舐め…うわ、僕、病人になんて事を」

「……」

「怜?」

「…お前が煽ったんだ、責任とれよ」

「えっ、ちょ…寝てないと…あっ、あああ」


【了】






【四谷様が襲われる/0722】

「ふふ、やはり此処のみたらし団子は美味だねぇ」

多くの木々や草花に囲まれた、神社の一角にある茶屋。
外に置かれている長椅子に座って天現寺橋と四谷は、団子を口に頬張る。

のんびりした空気、神が鎮座する庭には静謐な空気が流れている。
此処は四谷のお気に入りの場所だ。

頬を撫でるように、柔らかな風が吹いた。

「何とも気持ちが良い…」

「そうだな」

(まあ、僕は違う意味での“気持ち良いコト”をしたかったんだけどね…)

そう、今日は暫くぶりの逢瀬で、天現寺橋は期待しながら四谷の屋敷に訪れたのだが――、
けれど、羽織様の気分はそうではなかったらしい。

天現寺橋の気持ちとは裏腹に、四谷は微笑みを湛えながら、「でーと」をしようと此処に連れて来た。
だが、正直……寝所でまぐわいたかった天現寺橋にとって今の状況は、不満である。

(どうにかして、そっち方面に持っていけないかね…)

天現寺橋は団子を口にしながら、その機会を窺っていた。
ふと、四谷の唇にみたらしがついていることに気付く。
四谷らしからぬ、可愛いミスだ。

(ああ、そうだ…)

天現寺橋は作戦を思いついて、にやりと嗤った。

「四谷、口許についている、よ…んっ、…」

天現寺橋は四谷の唇を舐めとるようにして、唇を重ねる。
そして、そのまま舌を深く押し込んだ。

「っ、これ…天現寺橋…急にどうし…ん、んん…」

どこか慌てたような声が漏れる。
いつも冷静沈着な四谷に、己がそのような声を出させているのだと思うと、また興奮した。

「四谷…この茶屋、いつも僕ら以外に、人が誰もいないよね。
それに店員も、奥に引っ込んでしまっていて…此方を見ていない」

だから、少しぐらい触れ合っても分からないと、天現寺橋は四谷を長椅子に押し倒す。
うなじに首筋に唇を落としながら、己の張った下半身を擦りつける。
このまま、裏の林に行っても良いかもしれない。

「聊か悪戯が過ぎるぞ」

しかし、暫しして、天現寺橋の唇を四谷の人差し指がそっ、と押し返した。

「…私はこのような事は好まぬよ」

「ッ…」

声が引き攣る。調子に乗って怒らせてしまっただろうか。
天現寺橋は不安げに顔を曇らせた。奥歯を噛みしめる。
が、その様子を見て、四谷は妖艶に微笑んだ。

「私が好きなのはお前を組み敷く方だよ」

「え」

視界が反転する。
気づけば、逆に天現寺橋が押し倒されている。
着物の奥に入った冷たい指が、腿をいやらしく幾度も撫でた。

「お前が抱いて欲しいと熱を帯びていくのを見るのが、とても面白かったよ」

「ッ、全部知っ……四谷、図ったな」

「たまには焦らされるのも悪くないだろう。ここで暫し触れ合ったら、屋敷に…私の寝所に戻ろうか。
ああ、お前が望むならそこの林でしても構わぬが」

「……人の心を読むなよ…意地が悪い奴…」

ふふふ、と四谷が嗤う。結局は天現寺橋など四谷の掌に転がされているのだと、知る。

(けど…やっと触れ合える…)

折角、四谷がその気になったのだ。今はその快楽だけを素直に味わおう。

(でも、絶対…先刻のキスに驚いていたのは素、だったよな…)

また機会があれば、あのすかした顔を歪めてみたい。

そうと思いながら、四谷の首に腕をまわし、天現寺橋は瞼を下した。


【了】





【天現寺橋から上大崎へご褒美/0723】

「ねえ、怜。ほら、ここのカフェは色んなパンケーキが有名なんだ」

「へぇ。まあ、メニューはきみに任せるよ」

「どうしよっかなぁ」

上大崎は楽しげな様子で、メニュー表を広げる。
此処は表参道に並ぶカフェのひとつ。
以前、上大崎が天現寺橋と一緒に行こうとしていた場所だ。

天現寺橋が実家関係で揉める度に反故にしてきた上大崎との約束や予定を、
天現寺橋はひとつずつ果たそうとしていた。

まずはデパートのエレベーターに出るという幽霊の検証……そして、カフェでお茶をするということ。
だから、今回は珍しく、天現寺橋から電話して上大崎を誘ったのだ。

すれば、二つ返事で上大崎はすぐに逢いにやってくる。
笑顔で駆け寄ってくる上大崎はまるでご褒美を貰える犬の如く、尻尾を横に振っているように見えた。

「怜から連絡なんて嬉しかったよ、凄く。依頼も一緒にできたし、こうやってお茶できるのも愉しい」

「…気紛れだよ」

「うん、それでも嬉しい」

運ばれてきたケーキを前に上大崎は微笑む。結局、個々に違う味を頼んでみた。

「うん、美味しい…」

「僕のも美味しいよ」

「へぇ」

「あ、食べる? ほら…あーん」

差し出されるフォークに、天現寺橋は眉を顰めた。

「いや、しないし。ここ外なんだぞ…きみ、僕らが男同士だって分ってるのか」

しかも上大崎はテレビを賑わす人気陰陽師だ。堂々とイチャつくにはリスクが高い。

「あのー…」

そんなとき、上大崎に気付いた女の子が話し掛けてきた。

「優君だよね。握手とサインしてくれませんか?」

(ほらみろ…)

とはいえ、己も迂闊だったか。こうなることは予想できたはずなのに。

(僕も浮かれてたのかもしれないな)

「…プライベートなんで、ちょっと…」

「えー…」

「…じゃあ、握手だけなら」

「きゃあ、やったぁ!」

「私も私も!」

「え、あ…じゃあ順番で」

上大崎が甘く微笑むと、黄色い声があがる。それをきっかけに、ひとり、またひとりと握手を求めてきた。

(何をへらへらしてんだか…)

天現寺橋はどこかムカムカする心を抑えながら、ストローに口をつけて紅茶を啜る。

「(ごめんね)」

そんな天現寺橋に目配せをして、上大崎は口パクで謝る。天現寺橋は、はいはいと頷いた。
あとで、お詫びのキスを沢山して貰おう――そう思った時、

「あっ…」

上大崎に群がる女の子に押され、テーブルに手をつく。紅茶が零れ、手と着物に掛かった。
しかし、彼女らは謝るどころか、天現寺橋を「邪魔」だと睨みつける。

(やれやれ…)

天現寺橋は嘆息する。呆れつつも我慢しようとした。だが、

「――怜」

上大崎が椅子から立ち上がり、天現寺橋に近づく。ハンカチを出して、濡れた箇所を拭った。

「大丈夫。怪我は…?」

「大げさな…してないよ」

「…そう」

ほっとしたように微笑む。しかし、すぐに無言で立ち上がると、上大崎は伝票を手にしてレジに向かっていく。

「行こう」

「え、でも…」

「いいから!」

(怖っ…優、まさか怒ってる…?)

「優くーん…行っちゃうの?」

後から女の子達の声がかかる。上大崎の瞳孔が一瞬、開いた気がした。

「悪いけど…もうおしまい。僕、この人と居る時間を大切にしたいから」

言葉はひどく冷たく、けれど表情だけは微笑んで、上大崎はバイバイ、と手を振る。
女の子達もつられて手を振り返した。

「怜…行こう」

そして、上大崎は天現寺橋の手を引くようにして、そのまま店を後にした。

「おい…いいのか。手なんか繋いで噂に…」

「そんなの構わないよ! 怒鳴るの我慢しただけマシだろ!」

「優…」

「僕、デート楽しみにしてたんだ。それなのに…」

そこまで言うと、上大崎は小さく息を吐く。
落ち込んだように、表情を曇らせた。

「…ごめん、僕のせいだよね」

「気にするな」

泣きそうに謝る上大崎の頬に触れ、天現寺橋は微笑む。

「ファンサービスも大切だよ。腹は立つが我慢するさ…」

「怜…」

(その代わり、後でちゃんと甘やかして貰うしな…)

そう。愛してると、きちんと証明してくれれば己は満足できるのだ。

「な、だから…」

「分ったよ。僕、今度のテレビできみと付き合ってるって言うよ」

「ッ、はぁぁぁぁ?」

「コソコソするのは嫌だし、きみに我慢なんかさせたくないからね」

「あ、いや、あのな…」

「うん、そうしよう! きっとファンも分ってくれるよ!」

急に笑顔になった上大崎は、名案とばかりに天現寺橋を抱き締める。

「だから、ちょっと待て」

「そうしたら堂々と会えるし、きみも一緒に出演してよ――ね!」

「ね、じゃないっっ! 僕の話を聞けっ、莫迦者!」

どうして上大崎の愛はこう極端なのだろうか。天現寺橋は痛む頭を堪えながら、上大崎の足を蹴った。


【了】





【土用の丑の日&目黒VS上大崎/0724】

七月二十九日は土用の丑の日。
「“う”が附く物を食べると夏負けしない」といわれ、
今日では鰻を食べるのが慣わしになっている…のだが、

「…バサラ、これは何だ?」

「はい、ご飯と“う”めぼしです」

「鰻は…?」

「あるわけないじゃないですかー…センセイ、こないだ符を買ったばかりですよ」

「……」

つまり鰻を買う金なんて無い、ということなのだろう。
天現寺橋は嘆息すると、梅干しを眺める。
仕方が無い、そう思った瞬間――タイミングよく玄関の呼び鈴が鳴った。

「やあ、鰻の蒲焼きを持ってきたよ」

「っ、上大崎……!」

現れたのは上大崎と高級デパートで買ったのだろう、天然の鰻。
天現寺橋は美味しそうな匂いを嗅ぎながら、感動したように眸を輝かせた。

「僕…お前と友人で良かったって今初めて思ったよ」

「えええっ、初めてなの!?」

「有り難う、上大崎…嬉しいよ」

「…うん。ねえ、僕だったらこうやってきみにいつだって美味しい物を……」

「バサラ、さっそく米にのせてくれ! タレはたっぷりで!」

「はい!」

「ねえ、天現寺橋、聞いてる!?」

「ん……?」

梅干しの代わりに乗っかる鰻を見つめつつ、空返事をする。上大崎の表情は見えてはいない。
――けれど、上大崎の顔は真剣だった。

「…きみ、本当に目黒と付き合ってるの?」

「え、あ、まあ」

鰻を食べながら、天現寺橋は答える。やはり、上大崎の顔は見ていなかった。

「そう…」

そう、その時の上大崎の眸がどれ程まで暗く、狂気に孕んでいたのかを天現寺橋は知らぬままだ。

「上大崎、きみも食べていくか?」

「ううん、きみの為に買って来たから、全部食べていいよ」

やっと顔をあげて上大崎と視線を交えた時は、いつも上大崎に戻っていた。いつもの微笑みを浮かべている。

「それに、実は僕――」

その時、また事務所内にチャイムが鳴り響いた。

「よう、鰻買って来たから一緒に食おう、ぜ……」

リビングに入ってきた目黒の動きが、はた、と止まる。
鰻を食べる天現寺橋との間を遮るように、上大崎が目黒の前に立った。

「残念だったね。もう天現寺橋は僕の買って来た鰻を食べてるんだよ」

スーパーで買って来ただろう鰻を持っている目黒に、上大崎はそう言って嗤う。
彼が挑発的な眸を向けていることに気付いてるのは、目黒のみだ。

「はぁ? 何でてめぇが居るんだよ…」

「居たら悪い? 天現寺橋は別にきみの所有物じゃないんだよ」

「…俺はあいつの恋人だ」

「そんなのいつだって解消できる。特にまだ知り合って日が浅い関係なんて、脆いもんさ」

「は。お前なんて、たかだか昔馴染みってだけだろ…なぁ、オトモダチさん」

「…友人だからこそ常に傍で支えられることが出来るんだよ、きみと違って…永遠に、さ。
まあ…せいぜい油断しないことだね」

上大崎が陶然と微笑んで、目黒が不愉快さを隠さず眉を顰める。互いに引き下がらない。

「おい、きみ達…二人で何をこそこそ言ってるんだ。あ――」

ふいに、空気が変わる。

「あ…、げ」

「え、な、何…」

先に天現寺橋を目黒が反応する。
上大崎も二人と同じように視線を動かせば、静謐な空気を纏った――四谷と目が合った。

「ふふ、面白い余興が見られたよ。その争い、私も是非参加したいねぇ」

その言葉に目黒が顔を顰める。
厄介な奴が参戦してきた、そう思った。
勿論、上大崎も同じ気持ちである。

「ふふ、そう厭な顔をするな。
今日はまあ、休戦だ…目黒、お前は料理が得意と伺い聞いている。此を捌いてはくれまいか」

そう微笑みながら差し出された小さな桶。
目黒が受け取ると、バサラと上大崎も近付いてくる。三人で中を覗くと、生きた鰻が数匹泳いでいた。

「ッ……」

「わぁ、鰻さんだー!」

「お、すげぇ活きがいいな。…って、上大崎。何で後退りしてんだよ」

「ぼ、僕…ちょっと生きた鰻が苦手で…」

「へー…」

にやり、と目黒が口角をあげる。
徐に鰻を掴むと、先刻のお返しだとばかりに、上大崎の眼前にずいっと差し出した。

「ほらほら、けっこう可愛いと思うぜ」

「ッ、やめ…わっ、わわわ」

そのまま上大崎は床に倒れ込み、鰻もその上に落ちては跳ねた。

「は、はは早く桶に戻してよ!」

「くく、てめぇで戻せばいいだろ。さもなくば、『お願いします目黒様』だ」

「ッッ~~!」

頬は引き攣り、上大崎は涙目になる。目黒はケタケタと愉快そうに嗤った。

「わぁ、それって鰻プレイですか!? ボクもセンセイにやりたいなー」

「…ほう、其れは興味深い」

バサラと四谷は何やら妖しい会話を繰り広げる。桶に居る、鰻が活きもよく跳ねた。

「……」

賑わう…いや、喧しい四人を尻目に、天現寺橋は大量の鰻に目を向ける。

(それより食べきれるのか、これ…)

そして、その考えと喉に刺さった小骨を流すように、そっとお茶を啜ったのだった。


【了】


◇余談

天現寺橋
好きな食べ物:シラスご飯、肉、甘いモノ 嫌いな食べ物:辛いモノ、苦いモノ

上大崎
好きな食べ物:洋食、辛いモノ、炭酸水 嫌いな食べ物:シラス(目が怖い)、鰻

目黒
好きな食べ物:酒、焼き鳥、塩っ辛いモノ、珈琲 嫌いな食べ物:激甘・激辛など極端なモノ、チョコ

四谷
好きな食べ物:卵(特にゆで卵) 嫌いな食べ物:加工食品




【ゴキブリの対処法/0727】

◇上大崎の場合

「す、優ッ…」

「だ、大丈夫だよ、怜。業者に電話したから。駆除が終わるまで僕のマンションに避難しよう」

「優…」

「大丈夫! 黒い魔の手から、きみも事務所もちゃんと守るよ、ねっ」

「…何でだろうな。ドヤ顔がむかつく」

「えええええ、酷ッ」


◇目黒の場合

「め、目黒!」

「んー…ああ、はいはい。こんなもん、怖ぇのかよ」

「ッ…」

「くく、こんなのティッシュで持って、潰せば……って、おい何で遠くにいるんだよ」

「近寄るな」

「え?」

「その手で僕に触らないでくれ」
「はぁぁぁ?」

「暫くエッチもなしだ」

「てめぇマジで一週間ナシかよ!」


◇四谷の場合

「ひっ、…四谷」

「おやおや、怯えるお前も可愛いねぇ」

「ッ、いいからどうにかしてくれよ」

「ふふ、仕方のない。…水棲の蝮五百満つ、すなわち蛟…――蝮蛟!」

「ッ!?」

「さあ、終えたよ」

「四谷…本当はきみも怖かったんだろ」

「……」

右京左京「お呼び下されば我らが始末しましたのに!」


◇バサラの場合

「バサラッ!」

「はい、お任せ下さいセンセイ。新聞紙で……えい!」

「バサラ…やったのかい?」

「はい! ほら、見て下さい、ぺっしゃんこですよー」

「え」

「ねっ! ふふ、センセイ褒めて下さい~」

「ッ、…バカサラっ!」

「えっ、どうして怒ってるんですか?」

「見せるなっ!」




【ダークな雰囲気/0727】

暗闇に浮かぶベッドに、天現寺橋は腰を落とす。視線を下に向けた。

「ああ…美味しそう…」

そう、可愛く綺麗で、大好きな四つのお菓子……僕はどれを選ぶのかな。

ひとつはフランス菓子のタルトシトロンヴェールのように、
爽やかな味の裏側で、歯が溶けるかのように砂糖が入ってる、糖度の高いお菓子。
このお菓子を食べたなら、病的なまでにその甘味の虜になるだろう。

もうひとつは、黒く輝くオペラ。
チョコとコーヒーの相反した甘さと苦みが混ざり合って、層を崩すたびに違う味が広がる。
このお菓子を食べたなら、ひとつの味では満足出来ない。
そう、またすぐに新しい味が欲しくなって、何度でも中を抉って暴き出す。

昔から傍にあるのは、水色に輝く金平糖。
固く棘を持っているのに、口に含めば上品で、甘く優しい味がする。
このお菓子を食べたなら、食べつくすまで止められない。
きっと麻薬中毒の患者のごとく、その味がなければ生きられないだろう。

手を伸ばす距離には、ふわふわの綿菓子。
存在は不確かだけど、確かな甘さが身体に沁み込んでくる。何度でも食べてしまう。
このお菓子を食べたなら、どこか懐かしく安心できる。

「……」

砂糖が多くて、甘くて、甘くて――。どれも欲しくて、どれも食べたい。

(ああ、どうせなら四つ…全て食べてしまいたい)

そう、どれも美味しくいただいてどの甘さも堪能したい。

「…上大崎、目黒、四谷、バサラ……ねえ、きみ達の味を僕に教えて?」

睡眠薬で眠らせた四人それぞれに、天現寺橋はそっと唇を落とした。


【了】




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