東京陰陽師~天現寺橋怜の場合~発売を記念して、
ライター・穂波さんがツイッター上に掲載したSSSをまとめております。


【七夕/0707】


「わぁ、もうお願い叶っちゃいましたー」

上大崎が手土産を渡した途端、バサラがそう言って手を叩く。
天現寺橋事務所に訪れてすぐのことだ。

「何、どういう意味?」

首を捻りながら玄関から部屋に移動する。すると、その意味がすぐに分かった。

「わぁぁぁ、大きな笹だ」

事務所内に所狭しと葉を広げた笹には、吹き流しや提灯や菱飾り、
そして陰陽五行説に基づいて五色の短冊が色鮮やかに飾られている。

中には「肉が欲しい」、「ケーキが食べたい」など、物欲丸出しの願い事が書いてあり、
その一部は手土産となって叶ったのだろう。どうりでバサラが大袈裟に喜んだ訳だ。

返事をする前に紫色の短冊を筆と一緒に渡される。
七夕に願いを書くなど、幼い頃以来である。

「僕らの願いも叶ったしね。きみも欲しいものでも書けば、叶うかもよ」

「欲しいもの、ね…」

渡された短冊を持って、上大崎は言葉を濁す。どうしようか、と戸惑う。

何故なら本当に己が欲しいものは、たったひとつ――天現寺橋だからだ。

けれど、それを書けるわけもなく、上大崎は黙って短冊に視線を落とす。願うこともできない願い。

(でも…こんな日くらいは…)

本当に願いが叶うならば。
欲しいものが手に入るというならば。

「……」

上大崎は躊躇いなく短冊に筆を滑らせる。
――ささやかで、そして贅沢な願いをしたためた。

「…それ、本気か?」

横から天現寺橋が眉を顰める。頬がどことなく赤い。

「勿論」

「恥ずかしい奴…」

「ふふ」

そこには綺麗な字でこう綴られていた。

“天現寺橋とこれからもずっと一緒にいられますように”、と。

何とも子供じみた願い。
けれど、これが上大崎にとって何事にも代えがたい望みなのだ。
だから――、

「…ねえ、叶えてくれるだろ」

そう言って、上大崎は天現寺橋と笹を交互に見て、微笑んだ。

きっと、叶うと信じて。
叶えられると信じて。

その答えが分かるのは、もう少し先のこと。


【了】



【天現寺橋の幼児化/0708】


「て、て、天現寺橋ぃぃぃ、どうしたのそれぇぇぇ!?」

「煩い上大崎」

キーン、と鳴る耳を塞ぎ、天現寺橋は目を細める。
ある日の午後、事務所には男が四人に一体。

「ふふ、その姿も愛らしいよ」

「そりゃあ、どうも」

今にも唇を重ねてきそうな妖に礼を言う。距離が近い。

「可愛いですよね。ボクが紫雲にお願いしたんですよ、えっへん」

「威張るな」

諸悪の根源であるバサラの頬を、天現寺橋は軽く抓りあげる。
そう、菖蒲の妖である紫雲の力によって、天現寺橋は突然幼児化してしまったのだ。
五、六歳というところか。

服は、肌襦袢をお端折りのようにして着ている。

「くく、凶悪面も少しはマシになって良かったじゃねぇか」

人の気も知らず目黒は嗤っている。面白がっているのだろう。

「それで、いつ元に戻るの?」

「…ああ、今回は一週間かかるらしい」

「一週間も…」

「…ほう」

「ふーん…」

「何だよ」

己を見下ろす面々に、天現寺橋は眉を顰めた。
――そして、それからというもの。

「天現寺橋、これもきみ似合うと思うんだ。早く着てみて。あ、プレゼントもあるからね」

まるで孫ができたじじぃの如く、上大崎は三日に上げず色々と貢ぎにやってくる。

「おい…旗立てオムライス早く食べろ」

目黒は子供が喜ぶような料理を用意し、

「ふふ、昼寝の際は私が添い寝をしてやろう」

午睡の度に四谷がやってきては、ベッドまで己を運ぶ…至れり尽くせりだ。

「お風呂はボクが入れてあげますね」

(いやいや、僕の中身が大人だって分かってるのか…)

精神的年齢に全くあっていないご奉仕を受けながら、天現寺橋は嘆息する。
けれど、決してそれを口に出しはしない。

(まあ、たまにはこういうのも悪くない…かな?)

そう、何だかんだで愉しんでいるのだ。

(あ、そうだ…この姿でエロいことを頼んだら、どういう反応するかな)

あげく、こんなことまで考えているのだから、本当に始末が悪い。


【了】




【温泉編~好みのパンツの場合~/0709】

「わぁい、温泉だ!」

白丁を素早く脱ぎ捨てると、バサラは駆け出す。
危ないと注意をしながら、己も帯を解いた。

今、天現寺橋は箱根の温泉に訪れている。
陰陽師としての仕事も忘れ、趣のある神代欅造りの旅館で
のんびりしたひと時を過ごしている……はずだった。

「ねえ、バサラって何で下着履いてないの?」

「…私も履いていないが、それのどこがおかしい」

「えええ、そうなの。…あ、本当だ」

「妖や式神にそのような概念がないのは道理。
それに布で押さえつけるなど苦しいだろう…ふふ、貴様の大きさならば問題はないだろうが」

「ッ!? な、なな何言って…まだ脱いでないだろ!」

「見なくとも分かる」

「はぁぁぁ!?」

「…というか、きみたち煩いよ」

天現寺橋は項垂れ、嘆息する。そう、上大崎と四谷もこの旅に同行しているのだ。
女三人寄れば姦しいとはよく言ったもんだが、この連中が揃えばそれ以上に喧しい。

「ったく…お前らマジで黙れよ」

目黒はあからさまに不機嫌な様子で、天現寺橋に同意する。
それもそのはず、本来ならば目黒が商店街の福引で引き当てたこの温泉には、
二人で来るはずだったのだ。
それなのに、どこで知ったのか。
上大崎が宿を貸し切って参加してきたのだ…四谷とバサラも連れて。

「僕だけが来る予定だったのに、二人が勝手についてきたんだよ」

「いや、お前も来んなよ」

「…二人っきりで温泉なんて許すわけないだろ」

「そういうことだ」

「ボクだけ留守番は嫌ですー」

「てめぇらな…」

頭痛を堪えるように、目黒は目を瞑る。しかし、諦めたのか、服を脱ぎだした。

「ほう、貴様の下着は随分と肌に密着しているのだな」

「…ボクサーパンツっていうんだよ。モノのおさまりが良いから俺は好きなんだよ」

「へぇ、ポジションは気にしたことないけど…僕もボクサーだよ。
というか、形より布感にこだわるかな。今日もシルクだし」

「うぜぇ…」

「何でだよっ!」

「ふむ、それぞれにこだわりがあるんだな。僕は無いな」

「え、そうなの?」

「ああ…僕の下着は全部貰い物だからな。トランクス以外もあるよ」

「ふむ、確かに私が以前に見たのは布地が三角だったな」

「いつ見たんだか…つーかよ、誰にパンツなんか貰うんだよ」

「何回か寝た…いや、一回だけの奴もいたか。まあ、そんな感じだ」

「皆、センセイに履いて欲しいパンツをプレゼントしてるんですよ、きっと」

バサラの言葉に、三人の顔が急にこわばる。

「…ッ、そんなの捨てちまえ!」

「勿体ないだろ。まだ履けるのに…」

「そーいう問題じゃないよっ!」

「ふむ、いっそのこと履かなければ…」

「……」

喧々囂々と言葉が飛び交う。

(あ~あ、またパンツが増えますね。四谷様は兎も角、あの二人から…)

さあ、一体どんなパンツが送られてくるのだろうか。
フリルつきのTバックを送ったことがあるバサラは、余裕気にひとり微笑んだ。


【了】




【温泉編~どこから洗うの?の場合~/0710】


服や着物を脱いだ天現寺橋達は、バサラに倣い浴場に脚を踏み入れる。
天現寺橋と四谷はタオルを手に持ち、目黒は肩に掛けて堂々と歩いていく。
先に身を清めようと洗い場に進んだ。

すると。どこからともなく風が吹く。
なびく髪を抑えて目を凝らすと、その場に右京と左京が現れた。

「お待たせしました、主」

「私達が背中をお流し致します」

「…ああ、宜しく頼むよ」

甲斐甲斐しく二匹の従者が、四谷の身体を洗い出す。常のことなのだろう。
ふと、上大崎だけが遠くに座っているのに気づく。
タオルを腰に巻いて、下半身は徹底ガードだ。

そんなに見られたくないのだろうか。
しかし、隠されると暴きたくなるのが人の性。
天現寺橋は、ほくそ笑んだ。

ひとりで身体を洗っている上大崎の立派な腹筋を、指でつつく。ビクッと肩が震えた。

「な、何…」

「きみ、右脚から洗う派なんだな。
でも、タオルで隠してたら洗い難いだろ…ああ、僕が洗ってやろうか」

「い、いいよ! それより、きみも前を隠してよっ。じゃないと僕…」

「じゃないと、どうなるんだ? ふふ。いいだろ、洗うだけだ…」

真っ赤になって後ずさる上大崎を壁際に押し付ける。
舌舐めずりをして、タオルを引き剥がそうとしたその時――、

「いい加減にしろ」

こつん、と頭を叩かれる。

振り向くと、髪に泡をつけたまま、目黒が怒りで口端をひくつかせていた。

「おや、きみは頭から洗う派か。奇遇だね、僕もだよ」

「誤魔化すな…てめぇ、俺の恋人だって自覚あんのか?」

「あるさ。これはまあ…好奇心だ」

「お前な…」

天現寺橋の悪びれもしない様子に、目黒は舌打ちをする。
そして徐に上大崎へ近寄ると、タオルを引き剥がした。

「てめぇも隠さず、とっとと見せろ」

「ッ!」

上大崎の肢体が、その場全員に曝される。

「ふふ、まあ…想像の範囲内だねぇ」

四谷の声が漏れ聞こえた。

「っ~、何するんだよ!」

「うっせーな、面倒臭ぇんだよお前…」

「はぁぁぁ!?」

二人は裸で言い合いを始める。こうなったら暫くは止まらない。
やれやれ、と。事を起こした張本人はシャンプーハットを被ると、無視して髪を洗い始めた。
そして、さっさと身を清めると、待望の温泉に浸かる。満足げに微笑んだ。

「…いい湯だ」

――ああ、出たらコーヒー牛乳を飲もう。


【了】



【温泉編~誰が天現寺橋の隣に!?の場合~/0711】

「…目、瞑れよ」

目黒は天現寺橋を布団に押し倒し、シャツを脱ぐと口角を上げる。
押し付けられた屹立が、短パン越しでもよく分かった。

欲情を孕んだ眸のまま、右手が浴衣の襟から懐に入り込んでくる。
天現寺橋は素直に瞼を下した。
そして、互いの唇が重なり合う――その瞬間、

「天現寺橋っ、ここ開けて!」

ドンドン、と激しく扉を叩かれる。思わず天現寺橋は扉に視線を向けた。

「…無視しとけ」

だが、頤を掴まれて引き戻されてしまう。そのまま行為が続くかと思われたが…、

「こうすれば良いのではないか」

四谷の声が聞こえたと同時に、扉が勢いよく開放される。
右京と左京が勢いよく蹴りを入れたのだろう。鍵が壊れていた。

「何、無茶してんだよっ!」

目黒の怒号が外にいる連中に向けられるが、無視。
バサラも含め、浴衣に身を包んだ全員が二人の部屋に乗り込んできた。

「おい、さすがに寝室は入ってくるなって言っただろ」

「無理っ、我慢できないよ! 僕らも一緒に寝るからね!」

「それにしたってタイミング悪すぎじゃねぇ」

「…キリクに窓から見張りを頼んでおいたんだよ」

「はぁ?」

目黒は眉を顰め、上大崎の肩にいるキリクを睨みつける。
すると、キリクは脅えたように身を震わせ、胸ポケットに隠れてしまう。
まあまあ、と天現寺橋が仲裁に入る。

「…仕方がないさ。今日は僕も我慢するよ」

色っぽい雰囲気は霧散し、目黒の歯軋りだけが虚しく室内に響いた。
そのタイミングで、バサラが布団を運び入れてくる。
右京と左京も手伝い、全員分の布団を部屋に並べた。

「四谷…きみも寝るのかい?」

「まあ、たまには従属と枕を並べるのも悪くはないさ」

「「四谷様…」」

「あー、上大崎様ずるいですよ! ボクがセンセイの隣です!」

「…逆が空いてるだろ」

「ざけんな、そっちは俺が寝るんだよ。お前は部屋の隅で寝てろ」

「そうですよー」

「何でだよっ!」

よく分からない陣地取りが始まり、天現寺橋は嘆息する。
だが、どこかこの賑やかさが心地良い。

(まるで修学旅行みたいだ…)

高校の頃、修学旅行に行けなかった天現寺橋は、ほんの少しだけ楽しい気持ちになる。
そして、まくら投げなどしてみたいなど、柄にもないことを心裡で思った。


【了】



◇余談【東京陰陽師~チンポジの場合~】


◇天現寺橋の場合
レフトポジション(トランクスの場合)、ストレートポジション
パンツごと位置があり、直す頻度も異なる。
基本あまり気にしないが、接着感を覚えると直したくなる。
そのときは腰を引いたり、ずらしたりなどを少しずつ繰り返し、ベスポジに移動させる。

◇目黒の場合
ストレートポジション
常にベスポジをキープしたいため(ずれると気持ち悪い)、位置を気にしてしまうタイプ。
なので、ボクサーパンツを愛用。
それでもずれた場合は、ベルト部分を持ちズボンを揺らすように直している。
もしくは、足のつま先をトントンして直す。

◇上大崎の場合
ややレフト寄りのストレートポジション
ずれても、そこまで気にしない。
どちらかといえば、直しているのを人に知られたくないので、
多少のズレはトイレなど行くまで我慢するタイプ。
どうしても直す場合はシラを切れる速さでモノを押し戻す(けどバレバレ)。

◇四谷の場合
フリーポジション(ややライト)
パンツを履かないのでフリー。
だが一応、ズボンの右足側にある膨らみに収まってることが多い(紳士服などと同じ仕組み)。
朝の身支度をする右京と左京が、きちんとベスポジに収めている。
直す時も同様、自ら直すことはほぼない。


【了】



【天現寺橋の過去の性生活/0712】


「さて、誰かつかまるかな」

――厭な夢を見た。
もう三年も経つというのに、実家での出来事は己の心に暗い影を落とす。

澱のように心裡に溜まった不快感が湧き上がり、どうにも拭えなくて外を出た。
以前、桃華に紹介して貰った出会いスポットに足を運ぶ。

誰でもいい――いや、最低限の条件はあるが、早くこの気持ちを快楽で掻き消して欲しい。

「ねえ…暇なの?」

数分もしないうちに声を掛けられる。
ふむ、と値踏みするように上から下を見た。清潔感もあるし中々のイケメンだ。

「暇だが…きみ病気は?」

「あはは、ストレートだね。いや無いよ…ホテル行く?」

「ああ」

天現寺橋は今晩の相手に寄り添う。近づく身体、甘く粘る声で囁く。

「朝までひどくしてよ」

挑発するように、誘惑するように相手の興奮を煽る。
すると、艶を増した天現寺橋の唇に、相手の唇が重なった。

「ん……ぁ、……」


熱を帯びた吐息が漏れる。脳内麻薬が分泌されて、厭な感覚が和らぐ。
「可愛いな、今晩だけじゃなくて毎晩お願いしたいよ」

「…ぁ、ふふ…僕を、満足させられたら…考えてもいい。ただし…」

身体だけだよ、と意地悪く嗤う。

「…あと、中に出すなら…ゴムもつけてくれよ」

そう、どうしてか。天現寺橋の中に出すと彼氏面をする奴が多かった。
勿論割り切った奴が大半だが、以前それで痛い目にあっているので念を押す。

本気の相手などいらない……恋愛など分からない。
刹那の快感だけ、与えてくれればいいのだ。

例外とすれば、新宿の羽織役とバサラだけか。
四谷は貸し借りという利害がはっきりしているし、バサラは己の式神だ。
心配がないので許している。

だが、心までは……といえば分からない。

(…僕が本気になれる奴なんて、いつか現れるのか…?)

想像がつかない。つくはずも、ない。

けれど、もしそんな日がきたなら、

(僕はどう変わるんだろう、か)

そんな“いつか”と“もしも”を考えながら、天現寺橋は瞼を下す。
ふと、瞼裏に映った顔は――。


【了】




【天現寺橋の嫉妬/0713】

◇上大崎の場合

「…」

「怜~、どうして黙ってるの? 何でご機嫌斜めなの? ちゃんと言って?」

「…煩い。僕に飽きたならそう言え」

「はぁ、何でそんな話に…あっ、もしかしてこないだ女子社員に告白されたこと?」

「…」

「あれは断ったよ。僕には怜、だけだから」

「…」

「大好きだよ」

「…うん」

「ふふ」


◇目黒の場合

「っ、目黒…何だよこの写真!」

「ん? ああ…元カノの写真なんてまだあったのか。よく見つけたな」

「…まだ会ってるのか?」

「はぁ? …ふ、何だよ随分可愛いな、おい。ヤキモチですか?」

「ッ、別に! きみが女がいいなら僕は…んっ(キス」

「バーカ。そんなの捨てておけよ」

「…ずるい奴」


◇四谷の場合

「もう帰るのか?」

「…何だ、厭なのか?」

「…別に。一紋が大事だってこと位、僕にも分かってるさ」

「ふふ、随分と物分かりの良い…では、褒美にもう暫しお前の傍に」

「え…いいのか」

「…お前の我が儘位聞き入れる度量がなければ、羽織役は務まらぬよ」

「…四谷」

「さ、おいで」

「ああ…」


【了】



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