絵:坂本あきら 文章:穂波   ウィンドウを消してお戻りください

「或る365日間の一日」


「むむむむ……」

黒檀の盆を睨めるように、じっと見つめた。





幼い頃から、
自分の誕生日は憂鬱な行事の一つだった。
期待しても無駄だと、痛感する日だからだ。

天現寺橋家にとっての誕生日とは、
一年間に渡る修行の成果を見せる公の場。
普通の家のように、祝い事に興じる日ではなかった。

プレゼントという名で与えられるものは、術書や歴史書ばかり。
欲しい物を尋ねられた覚えなど、一切ない。

挙句、毎年両親から贈られる言葉が、
「立派な陰陽師になるよう、また一年精進するように」である。
幼くとも、素直な祝福ではないことに気づくというものだ。

煩わしいと、そう思っていた。
この日が毎年巡るということにすら、うんざりしていた。

救いがあるとすれば、学生の頃だろうか。
友に祝って貰う誕生日は、ただひたすら嬉しくて。

けれど、そんな幸福な時間を壊したのも、
同じく誕生日だった――。

それが決定打となり、
劣悪な環境から織り成された最悪な出来事が起こる、
忌むべき日――それが己の誕生日と諦観する。

どうせ心高鳴ることなど、
二度と起こり得るはずもないのだから、と。
それでも、年を重ねるごとに
忌まわしいと思っていた感情さえなくなり、
今では己の誕生日を忘れ過ごすことも珍しくない。

たかだか365日間の一日。

繰り返す日常の歯車として、
普段と同じように過ごす、それで良かった。

それなのに――、

「センセイ、おめでとうございます!」

拍手喝采、満面の笑みを称えたバサラに、
大好きな抹茶味のロールケーキを、手渡される。

「おめでとう、天現寺橋」

バサラに続くようにして上大崎が、
目に痛いほどにカラフルなキャンドルを年の数だけ、
スポンジを崩さないよう丁寧に差していく。

「素直に喜ぶがいいさ」

戸惑う僕の髪を梳き唇を落とすのは四谷で、

「ほら、火つけっから早く消せ。
俺は、タダ酒が飲めるっつーんで来てるんだからよ」

こういう場所が苦手だろう目黒が、
めんどくせー、と口にしながらライターで火を点けた。

「…………」

何だ。

何だ。

どうしたんだ、僕は。
この気持ちは何なのだろうか。

幼い頃ではあるまいし、若い女性でもあるまいし、
自分はいい年した大人の男だ。

こんな風に祝って貰うことなど、
恥ずかしいことこの上ないだろう。

まして、己の誕生日という存在自体に
抵抗があるはずなのに。

忌まわしきあの出来事は拭えない過去であり、
変わらない事実なはずだ。

なのに湧き上がる気持ちの正体に、戸惑う。

「あ、あ、あ、ありが、と……う……」

なんだよ、悔しいじゃないか。
こんなの不意打ちじゃないか。

「さあ、吹き消して下さい。センセイ!」

嬉しいなんて言葉は、
絶対に言いはしないからな。

火照る顔を見られたくなくて、
顔を逸らし、揺れる炎に息を吹きかけた。


絵:坂本あきら  文章:穂波